導引1



 「導引」とは、中国に端を発した養生法のひとつです。皮膚を摩擦やマッサージしたり、
筋肉・関節を適度に動かす事により、身体の歪みを取り、気血の流れを良くし、人間の
身体に本来備わっている、自己治癒力を効果的に働かせるのを目的とする方法です。
神秘行では、この導引をリラックス法と併せて行う事によって、自分の心身を知る
ための訓練に役立てます。

 導引自体の歴史はとても古く、中国のもっとも古い図書目録である「漢書」芸文志にも
その名があり、紀元前一世紀の末頃には既にその原型が成立していたと考えられています。

 それ以来、長い歴史を経るにつれて導引は様々な種類の方法が作られてきました。
有名なところだけでも、八段錦(これだけでも、何種類もある)、易筋経、華陀五禽図、
均斉斎法、などという方法があります。これらはそれぞれ、様々な方法で以って、
この導引という方法を行えと記しています。しかし、これらの方法は、その全てを覚え
ようとしても種類が多すぎます。また、それならばと、そのどれか一つのみを記憶して、
決められた方法どおりに、ただ行っても、実はそれはあまり効果的な方法とはいえない
ものなのです。
 これは、よく、こういった訓練を始めたばかりの初心者が勘違いしやすい事ですが、
こういった訓練は、ただマニュアルどおりに覚えて行えば良いというものではありません。
 その理由は、導引が本来目指す目的を考えればおのずと理解できることです。
導引とは本来、その人自身の心身の気血の流れを良くするために行われる方法ですが、それを
他の人が考えた方法どおりにただ行っても、その行っている方法は他人にとっての良い方法では
あっても、自分にとって合う方法とは限らないのです。こういった「自分」の心身を改善する
ための方法というものは、自分自身の心身に合わなければ、効果が無いどころか、それを長く
続けると、よけい心身を害する事にさえなりかねないのです。

 学び手は、これらの事をよく踏まえ、まずは導引というものを広く研究してみて、実際に
自分の心身でそれらの方法を行ってみましょう。その上で、自分の心身が「気持ちよい」と
感じ、また、自分の体に良さそうと思える自分に合う行法を見出し、そういった行法こそを
毎日継続して行っていくようにしてください。ここで紹介する方法は、そのための方法を
作り出すための基礎的な資料と思ってください。



準備


 下記に基本的な導引を幾つか書いていきます。その導引のうち、まず各部導引は、その中の
それぞれの行法を場所を問わず暇を見つけて、行えるときがあったらいつでも行うようにして
ください。

 全身導引や八段錦などのセットとなったものを行うときはある程度の時間と場所が必要でしょう。

服装はゆったりとした服で、なるべく薄着にしてください。部屋はエアコン等を使い、少し
暖かめにしておくこと。行う時間帯はなるべく朝、起きたときか、夜、寝る前などのゆっくり
時間の取れる時が良いでしょう。

 また、導引を行う時の一番のポイントとしては、マッサージをする手に絶対に無理に力を入れて
やらない事です。はじめは摩擦などの感覚が解りにくいかもしれませんが、少し続けていれば、
自分にとって、ちょうど良い感覚と言うのが解ってきます。決して皮膚が擦り切れるほど力を
入れないこと。また、皮膚の上だけでなく、内部の方まで振動が伝わるように心がけて行ってください。
あと、皮膚の摩擦をするときは服の上からでは無く、出来る限り直接肌に触れて行う事。服の上から
摩擦を行うと、効果はかなり減ります。

 導引を行った後は体の各部が暖かく気持の良い感じとなるでしょう。また、身体の内部で血の
流れが良くなっているのを感じると思います。そういった気持ちよさこそが、この方法が実際に
効果をあらわしているという目安です。

 ここにあげている導引は特に基礎的なものばかりを集めてみました。
ここにあげているものだけを行っても、効果はあるとは思いますが、上にも書いたように、
人間は一人一人体質などが違いますし、慢性病などがあるときは、その病気を治すための
導引を組み込んだりもした方が良いので、学び手はなるべく導引について書いている他の書籍
なども参考にして、自分自身に適した導引をつくりあげるようにしてください。
 また、自分自身に適した導引を作り上げても、それを毎日、ただ漫然と行うようになって
しまうのではなく、自分自身の体調などをよく見て、それに応じて方法を変えて行く事も必要です。



各部導引


・手の導引

 1 右手の親指の腹で、左手の平をまんべんなく指圧します。
   それが終わったら、手を変えて逆も行います。

 2 左手の各指の両側を親指から小指まで一本ずつ、付け根から
   指先までよく指圧します。それが終わったら、各指の表と裏を
   これもまたよく指圧します。これを右手の各指も同じように行います。

 3 右手で左の手首の少し下を握り、左手をグルグル回したり、
   振ったりします。これを右も同じように行います。

・足の導引

 1 右手で左の足首の少し上を握り、左の足首を右へ10〜20回ほど
   回します。次に同じ様に左へ回します。これを右の足でも行います。

 2 左の足の裏を上に向け、足の裏全体を手の親指の腹で揉んだり、
   手を握って軽く叩いたりしてマッサージします。
   その後、足の裏全体を暖かくなるまで摩擦し、これを右の足の裏でも
   同様に行います。

 3 左の足の各指を右の手で持って、親指から順番に
   右まわりに20〜30回、左回りに同回数回します。
   これを同じように右の足でも行います。

・下腹の強化

 1 下腹に両手をあて、腹の中に意識をかける。

 2 下腹に少し力を入れて、へこまし、へこんだら膨らまして行く。

 3 このへこまして膨らますを最初はゆっくり、慣れたら素早く
   何回も繰り返します。

・肛門の引き締め

 1 肛門の括約筋をギューッと引き上げる。

 2 筋肉を十分引き上げたら、パッと筋肉をゆるめる。
   これを最初はゆっくり、慣れたら素早く何回も繰り返します。

・首と肩の導引

 1 まず、よく手をこすりあわせて熱くしておく。

 2 右手で左の首から肩にかけてよく揉んで行く。
   もし、揉んでいる途中で、とても痛いところがあったら、
   そこは気血の滞っているところであるから、よく揉んだり
   叩いたり、摩擦したりする。ある程度やって、痛みが取れたら
   次へ行くが、そういう痛いところは数回では、気血の滞りが取れない事が
   多いので、何日もかけて丹念にマッサージしていく。

 3 手を変えて逆も同じように行う。

 4 首を右回りに20〜30回まわす。左にも同様に回す。
 5 息を吸いながら両肩を上にあげ、息を吐きながら
   両肩を降ろす。これを20〜30回行う。


・補足事項・


 こういった基礎的な練習法は普段から暇を見つけて練習するようにしてください。
最初はコツがつかめないかもしれませんが、何回かやってれば自分に適した方法が、
自然と身につくと思います。

 下腹の強化や、肛門の引き締めは、数を行うほど良いでしょう。慣れて素早く
行えるようになった人の中には、1日に何千回と行う人もいるみたいです。この
2つの行法は特に精力を強める効果があります。
 あと、下腹の強化の際は決して、みぞおちに力を入れない事。胃に悪い影響を及ぼします。



全身導引


1 まず、手のひらをよくこすり合わせ、熱くしておきます。

2 両手の平を顔に合わせ、顔の前面を熱くなるまで摩擦します。

3 顔の側面や頭の上、後頭部などよく摩擦します。

4 耳の下、顎の下などをよく摩擦します。

5 首の両側、後ろなどをよく揉み、手のひらで摩擦します。

6 両肩を何回か叩き、ある程度揉んでから、手のひらで摩擦します。

7 また、肩の後ろも6と同じように摩擦します。

8 手のひらを下に向け、腕を伸ばし、両方の肩から手の甲の先までを
  反対の手のひらで、数回摩擦します。

9 手のひらを上に向け、8と同じように腕の裏側を手のひらで
  摩擦します。

10 胸部の乳首を中心に反対の手のひらで、螺旋状に
   10〜15回摩擦します。これを両側行います。

11 喉の下に両方の手のひらを置き、下腹に向けて、
   みぞおちまで数回すり降ろします。

12 胃にあたる部分に両手をあてて、左右に交差させながら、
   20〜30回摩擦します。

13 右手の手のひらで、へそを中心に右回りの円を描くようにして、
   20〜30回摩擦します。次に左手の手のひらで、これまた、
   へそを中心に右回りに20〜30回摩擦します。

14 左右の手のひらを肋骨の下にあて、脇腹を2〜3回すり降ろします。

15 右手の手のひらをみぞおちにあて、下腹にかけて2〜3回、
   すり降ろします。

16 右腕をあげ、左の手のひらで、脇の下から腰までの側面を
   6〜7回すり降ろします。左の側面も同様に行います。

17 両手のひらで、背中の胃の後ろのへんをよく摩擦します。
18 上体を少し前に屈め、両手を後ろに回して、手のひらを背中の
   肋骨の下にあて、左右同時に尻までの間を上下させます。

19 両手の指を腰の骨の真ん中あたりにあて、尾骨の先までを、
   上下に熱くなるまで摩擦します。

20 両手の平を腰の下部にあて、半立ちになり、両尻から両膝の裏までを
   5〜6回すりおろします。

21 膝の裏から、踵までを5〜6回すり降ろします。

22 両手の平で腿の付け根から膝までの表、左右両脇を5〜6回、
   すり降ろします。

23 膝から足先までを21と同じように表、両脇を5〜6回、
   すり降ろします。


・補足事項・


 摩擦を行っている途中でもし、手が冷たくなるような事があったら、手をよく
こすりあわせて再び熱くしておいてください。あと、最初にも書きましたが、
決して無理な力をいれて皮膚をこすったりしない事。この導引が終わった直後は
全身が暖かく、風呂にでも入った後のようにサッパリすると思います。



八段錦


第1段

 1 ゆかに座り、両目を閉じ、心を平静にします。

 2 両手の親指以外の四指を揃えて、頬の上から上下の歯茎を
   それぞれまんべんなく36回ずつ叩きます。

 3 手を合わせてよくこすり、暖かくなったら、
   後頭部から首の後ろにかけて、よく揉みほぐします。

 4 両手の指を耳の裏にあて、薬指で耳を倒して耳の穴をふさぎ、
   中指を耳の付け根にそってあて、人差し指をその中指に重ねます。
   人差し指をすべらせて、耳の後ろの骨を左右同時に24回打ちます。

第2段

 1 両手を握り、膝の上に置きます。

 2 顎をつきだすようにして、上を見ます。それから、
   顔を左に向け左肩の先を見、顔を上に戻して、
   すぐに右の肩先を見、また顔を戻します。
   これを合計12回、繰り返します。

第3段

 1 両手を握り、膝の上に置きます。

 2 舌で上顎をこする等して、唾液を湧かせます。
   ある程度、唾液を溜めたら、口の中をその唾液ですすぐと、
   唾液が口一杯に充満してくるので、それを、三口に分けて飲み込みます。

 3 飲み込んだ唾液が、喉から食道を通って胃に流れるのを
   よく感じ、その流れを想像します。胃にまで辿り着いたら、
   後はその感覚を想像でそれをずっと下まで降ろし、足に達したら、
   今度はそれを上昇させ、頭にまで達せさせます。

第4段

 1 肛門を締め上げ、舌を巻き上げて舌の裏を上顎に付けます。

 2 両手の平を熱くなるまでこすり、背部に回して、
   肋骨の下にあて、上下に三十六回振動させます。

 3 舌と肛門を戻し、顎の下を指で押したり、舌で上顎をこすったりして、
   唾液を湧かせ、飲み込みます。回数は多いほど良いでしょう。

 4 飲み込んだ唾液が第3段と同じように、流れて行くのを感じ、
   今度はそれが臍まで来たら、臍を中心に輪を描いて全身に広がって
   行くのを想像します。

第5段

 1 左右の肩を前後にそれぞれ三十六回ずつ回します。

第6段

 1 両手を握り、肘を曲げて両脇の前に置きます。
   左右に肩を互い違いに前方に三十六回ずつ回します。

第7段

 1 両足を伸ばして座り、両手の指を組みあわせ、
   手首を返して手のひらを上に向けて、頭上に伸ばしていき、
   腰を伸ばします。

 2 手のひらが上までいっぱいに上がったら、
   手のひらを下にして、ゆっくり頭の上に降ろし、
   頭頂を押さえて、一呼吸します。
   その後、また1の様に手のひらを上にして、
   手を伸ばしていきます。これを9回繰り返します。

第8段

 1 両足を伸ばして座り、両手の平を腿のつけねの表側にあてます。
   息をはきながら上半身を前に倒し、両手の平を両足の表面を
   流しながら、足先まで持っていき、息を吸いながら元に戻します。
   これを12回行います。

 2 舌で上顎をこすり、口に唾液を湧かせます。
   いっぱいになったら、3口にわけて飲み込み、
   第3段のように唾液に含まれる精気を全身に周流させます。


・補足事項・


 八段錦の言葉の由来は、「色々な異なった動作で編まれた錦織りのような
立派な導引」といわれ、その方法が八つあるので、八段錦と名づけたと
言われています。

 八段錦は特定の人が創り始めた方法ではなく、古代から伝わる様々な導引法の
うちから特に効果のあるのを選び、作られた導引なので、それを選んだ人
によって様々な種類があります。
 またその様々な種類を大別すると、座って行うものと立って行う2種類があり、
前者の方がより古くの型を伝えているといわれ、ここでは、座って行う方を
紹介しています。



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