西欧神秘伝統とは
ここでは、これからこのHPで紹介していく西欧神秘伝統あるいは西欧秘教伝統体系、実践ヘルメス学という学問についての、説明と定義をしておこう。
人間は遥か昔、その発祥以来から自分たちが何か眼にみえない不思議なものや、超自然的なものに囲まれ、
生きている事を感じていた。それらの「存在」は自分達を助けてくれる事もあれば、害を及ぼす事もあった。
それらの存在を感じ取るためには、通常の意識状態とは違うある種の「変性意識」に入ることが必要である。
古代の人は通常の意識とそういった変性意識との境界が曖昧だったために、それらの霊的存在を現実のもの
として認識する事が多かった。しかし、現代の人間は科学の発達や義務教育の普及のために、言語思考
というものが発達してきたため、それらの存在たちは通常の人間にとっては、なかなか感じ取ることが出来なくなってきている。また、現在の科学では、それら不思議な存在を証明する事が出来ないため、そういった存在
は過去の迷信だと考えてしまっている人も多いと思う。しかし、生まれつき意識の境界が曖昧な人や、ある種
の修行を積んだ人、そして普通の人間でも夢を見たりしている時などの特別な意識状態にあるときは、そう
いった存在を感じ取ることができるだろう。
古代の人間たちはそういった変性意識を通じて交流する不思議な存在と共に暮らしながらも、やがてその
影響を出来るだけ、自分たちにとってより良いものに変えていけないか、と思うようになり、そこでその
超自然物を制御するための手段が発生する事となる。その始まりとして現われたのが、原始的なシャーマン
的技術である。この技術は今から2〜3万年前には既に発生していたと見られる。それは現代でも世界の
至るところに、その伝統を見る事が出来る。南米などの土着民達の間で行われている、自分自身の意識を
幻覚植物や宗教的舞踏などによって通常とは違う意識レベルに持っていき、精霊や守護者と呼ばれるもの
との交流を得る技術もそれであるし、日本のイタコで有名な自分に霊を引き降ろし、相談者にそのメッセージ
を伝える霊媒者と呼ばれるもの達もその範囲に含まれるであろう。そして、この原始的な不可視の存在との
交流の技術は、その民族の間でも特別な地位を持つ、人物に綿々と伝えられて行く事になる。
やがて人間にとって知識の要ともいえる言語や文字などの記録技術が発達してくると年月とともに民族に
蓄えられた知識は纏められ、文明を発達させて行く事となる。そして、それと共に人間が常日頃感じている
超自然的なものを解説する神話や、様々な不思議な物事の由来を説明する伝説、人間たちにとって最重要な
テーマの一つである自分たちの未来を知るという事を実現させるための占いの技術、自分たちの頭上を翔ける
星から未来を予測する占星学というものが生み出され、一般にも普及してくる。この様な神話的世界をその
背景に持つ文明には、シュメル=アッカド人やバビロニア人、アッシリア人等の文明から、有名な古代
エジプト文明まである。この頃の世界のある程度大きな都市では、どこでも大衆の礼拝や献納のための
さまざまな神殿が建てられ、その普及により一般大衆たちも神話や伝説に登場する様々な神や精霊達に、
祈りを捧げる事が出来るようになっていた。
それらの祈りの技術の中でも特別に自然の秘密と法則に通じ、太古から伝わってきた重要で効果あるものは、
大衆を治めるべき超俗的な集団によって守り隠されていた。これが「密儀」と呼ばれるものである。
「密儀」の定義には「一定の時期に執り行われる神聖ドラマ」という意味もあり、その有名なものには
イシスやエレウシス、ミトゥラ、オルフェウスの密儀などがある。密儀はその参加するものたちの意識を、
ドラマによって高揚させ、この項の一番最初に述べたような変性意識の状態に持っていき、その意識状態で
神や不思議な存在の秘密を受け取ることを主な目的とする事が多い。この密儀には、また大衆の中からも
特別に選ばれたもののみが参入を許される事があり、そのものたちは、古代文明の中心的役割を担っていた。
密儀といった神聖な哲学的宗教や古代の賢者の知恵の大系は通俗的な大衆とは隔離されていたために、
逆に、大衆たちの間には通俗的な宗教を背景としたり、密儀から漏れ伝えられた断片的な知識を元に
したりした呪術的技術が発達して行く事となる。一般の名も無い下級民達にとっては、高尚な哲学よりも、
明日の糧を得たり自分の願望を叶える事の方がよっぽど重要なのであり、その目的を叶える為の呪術や、
欲望を満たすため等の呪術がもてはやされる。これらの技術は後に「妖術」や歪められた「魔術」という
形に発展していくようになる。
古来より伝えられた密儀及び魔術的技術は紀元前4000年あたりから、古代エジプト文明でいっせいに
花開く事となる。巷には神々や精霊が満ち溢れ、人々はそれらを敬いながらも自分の利益のために、その
神々を操作する技術を扱うようになる。神官は魔術的な力・マナを使い秘儀を駆使し、ピラミッドでは
密儀の伝授が行なわれた。ここに、西欧の神秘の伝統、秘教的体系が生まれることとなる。また、この頃、
古代ギリシア・ローマでは神話が発展し、様々な神々の伝説が生まれていった。その中にヘルメス・
メルクリウスと呼ばれる神がいる。この神は知恵を司り翼の生えた黄金のサンダルで空を飛びまわり、
人間に様々な知恵を与えた神様といわれ、古代ギリシア人達に親しまれた神の一人であった。この神様
自身はどちらかというと商売やずるがしこさという現実世界に即した種類の知恵を人間に教えた神で
あったが、その神がギリシア人が古代エジプトに移り住んだときに、エジプトの秘密の叡智を司る神
トートと同一視され、神人ヘルメス・トリスメギストス(三重に偉大なるヘルメス)に変化し、
秘密宗教や古代密議などに隠された叡智も現す、全ての知恵・叡智を司りあらわす神となった。ここに、
このHPの掲げる「
実践ヘルメス学
」という言葉の源が生まれることとなる。
ヘルメス・トリスメギストス(三重に偉大なるヘルメス)
(15世紀、イタリアのモザイク画より)
これらの事から、実践ヘルメス学とは、そのヘルメス・トリスメギストス神が現すような古代密議などに
よって得られた知識を元にする秘密宗教、占星術、錬金術、カバラといった秘密の知恵を総称する学問体系を
意味するものとなった。これらの西欧の神秘の学問体系の伝統は、略してそのまま「
西欧神秘伝統
」あるいは「西欧秘教伝統」、秘教体系とも呼ばれる。秘密の知恵を研究する学問一般は古代にはたいへん
栄えたが、しかし、その発展と繁栄にもやがて陰りが指す。「キリスト教」の誕生である。
紀元後、ローマ帝国に公認されたキリスト教はその勢力を急激に伸ばして行く。
本来、キリストの説いた教えは主の下、隣人への平等な愛を説くものであったが、その教義の中に
「唯一なる主以外に神は無し。それ以外の神と呼ばれるものは悪魔である」という感じの教え
があったために、キリスト教という信仰は人間の攻撃性を高める事を助長してしまう独善的なものへと
変わってしまって行く。キリスト教の教えは熱心な布教者によって様々な土地へ広まっていくが、それと
ともに、その独善的な教義の下に、その土地に本来根づいていた、土着的な神への宗教やそういったもの
から得られた秘密知識を「主」に敵対する「悪魔」の知識や宗教であるとみなし、その土地の神々への信仰
を弾圧するようになる。また、唯一なる主による恩寵以外の、他の神による奇跡は全て悪魔の所業と見做し、
魔術や妖術という技術も弾圧されてしまっていく。そして、古代のキリスト教以外の異教の秘密知識も
悪魔の知識であると、それらを受け継ぐ神官や賢者達を処刑。こういったことにより、人間本来の「知」を
研究する西欧の伝統的学問はその存在を迫害され、歴史の陰に移り、夜の時代へと入っていくことになる。
長い間、神の秘密を探ろうとする学問はキリスト教の教義の中においてのみ、その発展を許され、キリスト教
以外の伝統的な学問は闇に埋没してきた。しかし、やがてその長い夜にも薄明が訪れる。ルネサンスにおいて古代の学問が再評価され、様々な人達に異教の知識が息を吹き込んだのだ。長い間敵同士だったキリスト教徒
とユダヤ教徒の間に交流が生まれ、ピコ・デラ・ミランドラがカバラというユダヤ教の秘儀的知識によって
キリストの神性を証明しようとしたり、アグリッパの隠秘哲学という書により、魔術的カバラが大衆にも
広まる。西欧に古くから伝わる伝統的学問は再編され、ここに学問としての再興の兆しが現われる。しかし、
それはこの時代にあってもキリスト教の弾圧とともにあった。キリスト教徒にとって、異教の知識を伝える
学問の学徒は自己の宗教の繁栄、基盤を脅かす許さざる敵であり、神の名の下に弾圧、魔女刈りなど
の凶行が歴史上あいついだ。そのため、西欧の伝統的学問の学徒にとってはあまり目立つ活動は出来ず、秘密
結社という形態を取ってごく一部の限られた人物にのみ、その知識を伝えたり、その知識を象徴的に隠し本に
して伝えるなどその発展は限られたものだった。しかし、19世紀以降、現代科学の発展とともに、神は
この世にいない、地球は全宇宙の中心では無い、人間は神の子では無く、動物から進化したものだという
唯物主義が大衆に広まり、キリスト教の威光は地に落ちてしまう。だが、この唯物主義としての科学の発展は
逆に古代から伝わる秘教的学問の発展を促す事となる。本来の教義を勘違いしたキリスト教徒の弾圧に
恐れることなく、人間にとっての大切な「知」、西欧の神秘伝統を研究し得る時代が来たのだ。
そして1888年、西欧秘教伝統の歴史に大きな夜明けが訪れる事となる。イギリスはロンドンに、
実践ヘルメス学結社「黄金の夜明け」(GD団)が誕生したのだ。GD団についての詳しくはこのHPの
該当ページを参照してもらいたい。この結社はユダヤのカバラを中心に置き、西欧に古来から伝わる
様々な秘教的知識を一つの体系に纏め上げた事によって、秘教伝統の歴史に大きな転換点を与えた。
誰でもが、神秘学問を理解しやすく学べるための足がかりを作ったのだ。そして、この結社から、
あるいはその結社の知識を元に様々な神秘伝統を研究する人物が生まれ、人間の「知」を研究する
西欧の秘教体系は大きく発展を遂げることとなる。
そして、現在、これらの西欧の秘教学問は西欧だけに留まらず、日本でもその知識を伝える書籍が翻訳・
出版され、自分自身の隠された知恵を求める学徒に大きな影響を与えている。このHPでも、
その西欧神秘伝統の知識を、求める学徒に伝えていくことになるであろう。
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